2011年3月21日月曜日

春との旅

僕はこの作品を今年一番に挙げる。
無駄な言葉はいらない。評論家の言葉も必要ない。
僕はDVDをあまり買わなく、"ずっと傍に置いておきたい"作品じゃないと買わない。
これはそれだと思った。素晴らしく"人生を映す"作品だからだ。



北海道寒村に足す漁村に暮らす元漁師の老人・忠男は、妻に先立たれ、同居する孫娘・春の世話がなくてはならない生活を送っていた。だがある日、春は職を失い、東京で職を探そうと考える。しかし足の不自由な忠男を一人暮らしさせるわけにもいかず、二人は忠男の身の置き場所を求めて近県に住む親類を訪ねる旅に出る。
脇役も主役を張れる豪華布陣で贅沢な作品。大滝秀治、菅井きん、田中裕子、香川照之。
惜しげもなく起用したキャストこそこのリアルは浮き彫りになる。
親類を訪ねる二人の背景は、紛う事ない日本の美しい"田舎"の景色。
晴ればかりじゃない、曇りも雨もある。それがとても現実以上に現実に感じ美しい。
昔、小津安二郎が撮ってた作品に似た時間の経過を感じる。
往年の黒沢映画の様な望遠、ワンシーンカット無しの長さ。
春演じる徳永えりの演技力は前半後半で変わってくる。成長している。
順撮りが成功した結果だろう。
しかし、それ以上に演技力が高まり次回の作品も気になるほどに。
演技派女優の新しい人かもしれない。

これは綺麗に撮った作品ではないと思う。
目を疑う程の"品"と、生々しい"生"が呼吸する
新しくそして過去に重きを置いた"日本映画"の傑作である。

が、
映画の評価が出来ない。
僕はこの主演する仲代達矢に夢中だった。
それは、まるで僕の父親そのまんまだった。

僕の父親は去年他界した。
歳をとっても、図体は大きく顔も大きかった。
頭は地元の散髪屋で切っていた。短めだった。
ヒゲは顔の半分くらいあって、長くならずに伸ばしても短いままが増えていくだけだった。
ヒゲの白髪が頭の白髪に繋がって、外国でいうショーンコネリーだった。
頭もまだらに白髪だった。
瞼の皮は薄くしわが寄って、眼鏡の"つる"はこめかみに跡をつけてた。
口はいつも開いてて閉じる筋肉はなかったのか。
眉は薄くなってた。眉尻は長くて、眉頭は薄くなってた。
Vネックのセーターが好きで好んで着てた。
テーラードジャケット一枚を好み
その一張羅はどこにでも着ていった。
足は悪くいつもゆっくり歩いてた。
たくさん歩くと疲れて機嫌も悪くなった。
お酒が好きで特に日本酒が好きだった。
「いけん」と家族に咎められても隠してコンビニで買ってて、
バレない様に家族にバレる前に勢いで呑んでた。
我侭だった。旅行で都会に行くとホテルに泊まりたいっていつも言ってた。
そのくせ行く店は、小さな定食屋やうどん屋ラーメン屋だった。
田舎の持つ都会への"怖さ"があったんだろう。
自分の体裁も気にしていた。
自分はいいと思ってるくせに、同じ事を人にされたらカンシャクしていた。
いつも同じ台詞ばっかり喋ってた。
どこに行っても、文句や我侭や「昔は…」の台詞。
それを聞いた僕はたまにイライラする事もあった。
でも無視は出来なかった。
父親は自分を知っててそして周りも知ってて
情けなくとも貫いて、そして弱い事も知っていた。

全て似ていた。僕の父親はこの仲代達矢を真似していたのかもしれない。そう思う程に似ていた。

だからずっと愛を感じて暖かく可笑しく、ずっと目が潤んだ。
酷な程に泣いた。
母にも観せた。母も唇をふるわせ「ありがとう」と言った。
父親が亡くなって初めて"会えた"。
生前を思い出す。僕はいい息子だったかな。
この孫娘みたいに誇りの息子だったのかな。
そして今も僕は父親が大好きだ。
口に出す事もない、当たり前に至上の気持ちを改めて想う。

だから僕はこの映画のDVDを買う。
いつでも父親に会えるから。

余りに幸せな作品過ぎて、僕はどうしようもなく
ただただ出会えた機会に感謝している。

追記:僕に音楽、映画、活字の無形文化を教えてくれたのは父親だった。
僕もそんな父親になるんだろう。それが誇らしくこの上ない幸せでもある。

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